書店で本を買わずに、必要な情報だけを写真撮影する行為は、「デジタル万引き」と呼ばれる。
カメラ付き携帯電話が普及し始めた2003年ごろから業界で問題視されるようになった。
対象になるのは雑誌の情報が多い。
携帯電話販売などを手がけるネプロジャパンの03年の調査(有効回答数約6千人)によると、「料理レシピ(14%)」「レストランなどの店情報(13%)」などがターゲットになりやすいという。
日本雑誌協会では、インターネットの普及で、最近は情報は無料で取得するものという意識が強まっている。
そのうえ若い世代は雑誌を一冊買うなら携帯電話代に回したいのだろうととため息をつく。
東京の八重洲ブックセンター本店では、店内の写真撮影はデジタル万引きに限らず全面禁止している。
しかし、「書籍を撮影する顧客は増え続けている」という。
「携帯電話のメールを見ているだなのか一見区別がつきにくいうえ、顧客相手に強い態度はとりにくい」と頭を悩ませる。
同店は現在、雑誌コーナーに撮影禁止を求めるポスターを張っているが、今夏からは全フロアに広げて、マナー順守をさらに強く訴える方針だ。
弁護士は「現物の本を万引きしたら窃盗罪に問われるが、情報は刑法が同罪の対象を定める財物ではない」と指摘する。
デジタル万引きと言う表現は、あくまでも業界が顧客マナーに訴えるために作ったキャッチフレーズだと言う。
刑法は形のない電気は財物と定めているが、それ以外は情報のような無体物を一般に財物とはみなしていない。
作家などの著作権者に無断で、書籍撮影といった複製行為をした場合、著作権法上の権利侵害にあたる可能性はある。
しかし、「その場合でも違法となるのは、その写真を業務で利用したり、インターネットで広めるなどの公送信をした場合などに限られる」(ネット関連法務に詳しい弁護士)。
個人的な利用のためのメモを取る感覚で撮影する分には違法とはみなされない。
著作権法は、個人が家庭内などで著作物を使用ずるための複製行為(私的複製)は例外的に、権利者の承諾なしに行って良いとしているためだ。
ただ、個人的な楽しみのためであっても、撮影行為自体が著作権法違反となる場合もある。
07年8月、劇場などでの映画の録音・録画を禁じる「映画盗撮防止法」が施行された。
同法は、著作権法の私的複製から、劇場での撮影行為を除外した。
デジタル万引きを刑法や著作権法で罪に問えないため、書店としては顧客のマナーに訴えるのが現実的な対応だ。
マナーを守らない顧客が後を絶たない以上、店内の撮影行為を禁止することが不当とまでは言えない。
店側には民法上、建物を管理する権限があるからだ。
法的に言えば、顧客は店に「入らせてもらっている」立場にある。
そのため、店側が合理的な範囲で「立ち読み禁止」「メモ禁止」「撮影禁止」などの条件を顧客に求めることは自由だ。
最高裁で今年4月、ビラ配りのために旧防衛庁宿舎に立ち入った市民団体の住居侵入罪が確定した。
ビラ配布を禁じる看板があったにもかかわらず入ったことに対し、同罪の成立を認めた。
この判決からも、「書店がポスターなどで明確に意思表示しているにもかかわらず、しつこく撮影を続ければ、住居侵入罪に問われてもおかしくない」(弁護士)という。
書店側は「本屋は本を売るのが商売。撮影だけして買わずに帰る行為がいかがなものか、常識的に考えてほしい」 と訴えている。
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